ビデオゲームのチョイ本

そのうち表紙画像くらい載せる……予定。


コンピュータゲームのアルゴリズム&ネットワーキング (ボーンデジタル / John Wiley & Sons)
Jouni Smed / Harri Hakonen 中本浩 訳


 参考書でも相当なゲームマニアが書いているらしく、ちょっとしたゲーム研究本ぽくなっている。
 基本的アルゴリズムの地味な解説があれば、チート防止についての章もあったりとアルゴリズムをつまみ食いしたような内容で、一見節操が無いように見えないこともありません。が、いちいち具体的なゲームの例が挙がったり、時にはデザインそのものの問題になったりと、ゲームの教科書にもなりそうな、堅苦しすぎず良い塩梅の構成です。特にマルチプレイヤーゲームでのBullet Timeを例にとった遅延の解説は、専門家の方にとっては当たり前のことなのでしょうが、シングルでは時間が遅くなるが、マルチではプレイヤーが加速するといったアプローチを含めてなるほど、言われてみればという内容でした。
 多少技術的なディテールがわかっていて、ゲーム関連のまとまった文を読みたいという方には良い本です。そんなに難しい内容ではありませんし、必要な事項はだいたい書いてあるので読んでいて困ることはないでしょう。


Chris Crawford On Game Design (Peachpit Press)
Chris Crawford


 こんな誰が読んでも面白い本がどうしてあまり知られていないのか不思議。
 クリス・クロフォードを知らない方のために説明すると、1984年に既にゲームデザインの研究本を出していたという分野の先駆者で、バランスオブパワーなどビデオゲームのかつての有名作を作った人間であって、かのGDCの初代主催者でもあります。要するに偉い人ですね。ところが、この本はかつてのThe Art of Computer Game Designよりも遥かに広範囲をカバーした、かつ砕けた内容になっていて、ゲームデザイン本という位置づけではあるものの、実はエッセイ本でもあるというわけです。もちろん最初はゲームの定義から入りますし、デザイナーズノートだってありますが、ここまで辛辣かつ広範囲に渡るテキストは他ではなかなか読めないものでしょう。
 特に12章では問題発言が次々に飛び出す「チャットつきネットゲームだったらチャットルームでのオンラインディベートやクイズショーでも同じ」他もろもろ、ここまで言い切る人間が他にいるだろうか? 冒頭のマイルストーン(&失敗作)紹介も価値ある、大ベテランの脳みその中身がちょっと読める本。

 残念ながら、ゲームデザイン関係のペーパーや書籍はほとんど邦訳されることがないためか(ルールズ・オブ・プレイは例外中の例外)、クリス・クロフォードほどの大物にしても邦訳のあるThe Art of〜以外の知名度がさっぱりです。この状況は5,6年前から2009年現在に至るまでまったく変わっていませんが、ゲームデザイン研究が好きとか興味があるという方は、あまり古いテキストばかり読まずに、積極的に新しいものを読んで・取り込んでいって欲しいと思います……なにしろ歴史の浅い分野なので。

 あんまり書店では見かけませんが、新宿のジュンク堂に他のNew Riders本とまとめて置いてありました。


任天堂公式ガイドブックSimCity (小学館)
APE


 スーパーファミコン版シムシティの攻略本。一見ごく普通の、低年齢向けに文字を大きくした攻略本のように見えないこともありませんが、全ページ中の1/4がコラムに割かれていて、これが素晴らしい出来。シムシティである必然性の全くない執筆陣がむしろ文の内容を面白くした……のか?
 しりあがり寿のギャグがしょうもなくて素晴らしいですが、他にもライフゲームをモデルにして、ゲームの予測不可能性について非常に簡潔に説明しているコラムが特に良い(最初から結果が見えているのは基本的にゲームではありませんが、ライフゲームは23/3とも呼ばれる、ほぼ結果の見えるシンプルなルールで成り立っているのに、何十ターンも先を完全に予測することなどできないので、予想以上の結果が生まれる)。実際シムシティ2000まではセル・オートマトンに近いアルゴリズムでシミュレーションしていたと聞きますし、NIMBYやYIMBYの概念もセルベースならではのものです。また後のSimTownに加えStreet of SimCityのような都市データ再利用のアイディアをいとも簡単に予言しているのは驚き(RPGだというのがちょっとらしい)。
 本来攻略本であるということもあってそれほど分量はないのに、どの文もそれにしては妙な迫力があります。

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