Hareraiser
懸賞つきパズル?
メタ・パズルというジャンルがあります。これは幾つものパズルの答えを総合するとまた別のパズルの答えとなるといった具合に、メタに連鎖していくパズル全般を指す言葉で、ビデオゲームではクリフ・ジョンソンの手による「The Fool's Errand」「3 In Three」やその影響を受けてアマチュアのインタラクティブ・フィクションのクリエイターが制作した「System's Twilight」(ただし、これは小さなパズルゲームの詰め合わせという趣が強い)などが代表的です。
このHareraiserもメタ・パズルの一種ということになるのですが、このゲームは発売から20年以上が経過した今でもクリアされていません。それどころか、後述しますがエンディングや解法があるのかどうかすら不明です。チート以外でクリア報告がほぼ無いゲーム(Centauri Alliance)や解けないステージがあるゲーム(ボンバザル)はありますが、誰一人としてクリアすらしていないゲームというのはビデオゲーム史上でも非常に稀なのではないでしょうか……。
仮面舞踏会と宝の行方
このゲームを理解する上では、まず1979年にキット・ウィリアムスが世に送り出した「Masquerade」(日本では「マスカレード 仮面舞踏会」として出版)という宝探し絵本を知っておかなければなりません。これは一見ごく普通の絵本の体裁を取っているものの、あちこちに隠されたヒントを総合するとある文章が浮かび上がり、更にその文章に隠された秘密を暴くことによって、イギリスのどこかに埋められている「金のウサギの首飾り」の場所が明らかになるというもので、宝探し本の中でも草分け的存在として知られているヒット作なんだそう。
待つこと約3年、1982年にケン・トマス(本名デュガルド・トンプソン)と名乗る人物がついに首飾りのありかを発見。彼が公式に正解者として認められたことにより、仮面舞踏会もその幕を閉じる……はずでした。しかし、トンプソンはパズルを解いて宝のありかを見つけたわけではなかったのです。
金属探知機? いえ、そうしたカンニングを避けるために、首飾りは宝石箱の中にしまわれていたはず。実際には、動物愛護運動家であり、ウィリアムスの元彼女であったベロニカ・ロバートソンの彼氏であるジョン・ガード(トンプソンの知人)が、首飾りによる全ての利益を動物権利擁護の促進に使用するという約束をもってロバートソンから手がかりを聞き出してしまったということのようでした。
ただし当初、ウィリアムスはトンプソンの回答を正しい手順によって導き出されたものではないにしろ、「まぐれ当たり」として認識していたようです。この事件が明るみに出たのは1988年のことでした。
なお最初に首飾りが発見された直後、2人の物理教師によってパズルの正当な解法が発見されています(この事件に関する記述の大部分はWikipediaの該当記事から引用しました)。
そしてHareraiserへ
首飾りを手にして2年後、トンプソンとガードはHaresoftを設立し、問題のHareraiserをリリースします。ビデオゲーム版Masqueradeといったスタイルのこの作品ですが、驚いたことにこのゲームを解いて得られる宝は「金のウサギの首飾り」そのものでした。ゲームは「プレリュード」と「フィナーレ」が同時に発売され、どちらのパッケージにも首飾りの写真が大きく印刷されている他、後者のパッケージにはでかでかと「30000£」なんて書いてあったりします……。
ゲームといっても、このページに掲載した画面写真(コモドール64版)からもわかるように殆どゲームとしての体裁は成しておらず、プレイヤーが出来るのは各画面によって変わる太陽や雲、木の配置を眺めたり、謎めいた文を読むことのみです。
ユーザーはまずプレリュードを解き、それからフィナーレを解くことによって初めて首飾りを手に入れることができるという触れ込みになっているものの、現時点ではプレリュードの解法すら明らかになっていません。
イメージを解析した限りでは、ゲーム中にエンディングが存在するわけではないようですが、ではこのゲームにおける「正解」とは一体何を指していたのでしょうか? Masqueradeのようにどこかに首飾りが埋められていたのだろうか? 全てが謎のままです。
正解者が一人も出ていない点、そしてトンプソンの素行(そもそもビジネスだとしても、なぜ首飾りを「転売」してしまうのだろうか?)や意味の無い前後編のバラ売りから、実際には正解や意味などなく、お金を巻き上げるためだけに作られたゲームではないかという説すらあるようですが、結局Haresoftは1988年に清算され、権利が二転三転した後首飾りは行方知れず。と思いきや2009年にBBCラジオ放送で首飾りの行方を求めた所、現在の所有者の孫娘であると名乗る人物が現れ、首飾りがウィリアムスの元に戻ってきたそうな。